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〜〜〜中学時代から〜〜
中間・期末試験の数学がおなじ16点だったことに感動したキミ。
キミが中学2年生の秋のことだった。ぼくは夕食の準備で味噌汁のだしをとりはじめていたところだった。ふっとうした鍋の火をとめて、袋から削り節をひとつかみ落とし、たちのぼる香りをかいでいると、玄関から、ただいまぁ、のキミの声がきこえた。
テニスの部活からかえった、足早な音が台所にきて、
「ねぇ、ねぇ、ちょっと聞いてよー」
と、嬉しそうな顔をしている。めったに見ない顔だった。心はワクワク、気はそぞろ。料理どころではない。
「ちょ、ちょっと待った。いますぐいく」
いつもは削り節が沈みきるまで調理をしながらみていたけれど、それをタイマーに任せることにした。三分か四分か。一瞬ためらって、四分を押して、居間のソファーにいるキミのとなりにすわった。
「どうした」(ソワソワ)
「ねえ、きいてくれる。今日、(期末試験の)数学のテストが返ってきたんだけどさ」
「おお」(ワクワク)
「中間(試験)と同じ16点だったんだよ」
「……」(信じたくないっ!)
ぼくは音速くらいの速さで満点が100点でないことを、祈った。
「100点満点、だよね?」
「そうだよ」
あたりまえのようにいった。100満点の16点。
青天の霹靂。驚天動地。
(信じたくないっ!)
思えばぼくも由美さんも答案用紙を見せろといったことがない。キミも当然のように見せなかった。だからキミがいつも何点とっていたのか、知らなかった。
はじめて知る16点。何べんも何べんも問いかけたいくらいの大ショックだった。
しかも連続で! これからウチの猫を煮て食べる、と言われたくらいのショックだった。
(信じたくないっ!)
「2回のテストでだ、ぴったりおなじだったんだよ。これってさ、すごくない! てか、カンドウしない?!」
「カンドウ?」(もしかして感動?)
あっけにとられたというか、度肝を抜かれたというか、まさかというか。つづけて同点だったことに感動したって?
そんなことに感動するか?! ふつう。
「感動。しないな」
「ええー」
と、キミはソファーでのけぞる。
「感動しないのォ。ぴったりおなじ点だったのにィ」
「しない、しないよ、そんなの」
「みんなが答案を見にきてさ、そしたら友達がね」
「え、ちょっと待った」
ぼくはショックのあまりアタマ破裂しそうになりながら、訊いた。
(つづく)
1.おとうちゃん「事件」
親子になって間もないころ、スーパーマーケットで、きみはいきなり「おとうちゃ〜ん」と言った。
2.小学校時代から〜〜カレー「事件」
調理の時間に友だちから「わたし前からカレーつくれるよ」と自慢されたときにとったキミの対応は……。
3.中学時代から〜〜
16点はきみにとって恥ずかしいことでも、ガッカリすることでもなかった。そのことに、ぼくは驚いて……。
4.中間・期末試験の数学がおなじ16点だったことにカンドウしたって?(その2)
答案を皆に見せて、「あ、おまえバカだったんだ」と男の子に言われちゃったと、楽しそうに。