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新型コロナウイルス禍を 生きのびるために

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『老い方練習帳』早川一光 角川新書

京都に住民の出資による診療所を創設。のちに堀川病院に発展し、院長、理事長を歴任。50年以上もの地域医療活動の体験とその人生哲学は、全国の講演会で大反響。テレビ、ラジオ、雑誌などで話題となる。著書の『わらじ医者今日日記 ボケをみつめて』ミネルヴァ書房 は毎日出版文化賞を受賞。

 ○私は、“病人”という言い方には、はばかりがあります。人間、病があるのが当たり前と考えると、病人というのは異常でもなんでもありません。人間、生まれた限りは病があります。当たり前です。“老いよし、病よし、そして死もまたよし”というように思えるには、それなりの努力と準備と老後への心がまえの練習が必要です。その努力こそ、人間が生きていく姿の一番大切なところだと思っています。 

○歯が年齢とともに欠けて、1本1本抜けていくのを“衰え”として寂しく思うでしょうか。でも、その考え方は違います。年をとると、歯はいらないのです。“なるべく噛まないでいいものを食べてね”とおなかが訴えているのです。その声が聞こえませんか? 

○自分が生きていくのが精いっぱいというのではなくて、毎日他人のことを考えながら日々の暮らしの出来る人間になってください。<どうしたら家族が喜ぶか、どうしたら街の人のためになるのか>と、いつもいつも頭に浮かべながら日々を送って欲しいのです。そのために、夜寝る前に今日一日を、振り返る練習を10分ほどしてください。 

○そして自分の行いによって他人が喜んでくれたら、たとえ感謝されなくとも喜びを持つことです。それは、人の役に立つことの出来る自分に対して、このうえない喜びを感じるということです。 

○ほんとうの喜びは、与えられるものではありません。自分でつくるものです。ないものを新しくつくっていく工夫と努力の中に“喜び”があります。 

○手紙をマメに書く人も大丈夫です。手紙というのは相手の心を読んで文章を考えなくてはなりません。手紙の簡単な文章は、実はとても難しいものの一つといえます。いとも簡単にハガキ一枚、手紙一本がしたためられる人は、いくつになっても豊かに美しく生きられることになります。 

○たとえ、足腰が多少弱っても、少しくらい痛くても、足を使ってください。そして歩きながら、その年になってもまだ歩ける自分に、この上ない喜びを感じて欲しいのです。一つや二つのバスの停留所の距離だったら歩くことです。 

○会社努めを定年退職した方は、まだまだ体力と経験があるのですから、例え短い時間でもいいですからボランティア活動をして下さい。 

病と病気の違い  病と病気は違います。病というのは臓器の故障です。その故障を気にしたときを病気といいます。 

○ここ十数年はお年寄りの病気は治さない、治すどころか故障のままもっていこう、故障もちながら寿命いっぱい生きて、生きて、生き抜かせていこうと思うように変わってきました。 

○ボケの発症の一番の原因はなにかといいますと、脳の血液の巡りを悪くする病気です。 中略 これらの脳の病気の原因はというと、いわゆる生活習慣病です。例えば、動脈硬化、高脂血症、高血圧、糖尿病などがあります。 

○感動のない性格もボケやすい。「ああ」という感動、「えっえっ」という驚きを素直に表すことが出来る人がボケにくいのです。生かされている喜びを感じられる人はボケにくい人といってもよいでしょう。 

○人様に「お世話になります」とか、世話をしてくれた人に素直に「ありがとう」という感謝の一言が言える人もボケにくいようです。 中略 心のアリ様がボケを食い止めているのです。 

○リアイアしたら、時間だけはいくらでもあるのですから、散歩をしたり、町内会の集まりに参加したり、近くの福祉施設などでボランティアをしたりして、どんどん仲間や知り合いを増やしていってください。そうした友達や仲間を増やす活気溢れる前向きな毎日の生活が、ボケを防いでくれるはずです。 中略 年々、出す年賀状や暑中見舞いが増えるような暮らしを心がけましょう。 

死への準備について

○<やるべきことはやった>、<思い残すことはない>、<あれもしたかったけれど、それはそれ、しょうがない>と、悔いを残さないことが大切です。この気持ちと態度が死の恐ろしさを吹き飛ばすのです。 

○“死”は敗北でも、引退でもありません。“死”は結果であり、完成です。そして“死”は必ず訪れる、安息と和といえるのではないでしょうか。 

○死をおそれてください。怖かったら「こわ〜い」と力いっぱい叫びましょう。死にたくなかったら「死にたくない」、「いまは死ねない」とわめいていいのです。叫んでも、わめいても、どうにもならにと本当にわかったとき、心安らかになります。 

○自分はどんな“死”を望むのか、“いつ”“どこで”“どのように”息を引き取りたいのか、なにを残したいのかということを、元気なときに、健康なときに、しっかりと考えて腹づもりを固め、きちんと文章にして書きとどめ、誰にでもわかるところに置き、署名、捺印しておきましょう。


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